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みなさんは「新政」にどんな印象を持っていますか。昔からの日本酒党には「どこにでもある普通の日本酒」だと思われてた時代があったようです。ところが、現在では「新政レボリューション」と言われるほどの変身を遂げ、「新政=大量生産の普通酒」というイメージから「こだわりの純米酒」へと進化し、「ザ・昭和の酒」という風体をしていた頃の「新政」は見る影もなくなっています。おしゃれなボトルと個性的な銘柄で注目されている、今の「新政」。そのルーツを紐解きながら、全ラインナップを紹介します!
ワイン好きにも人気の「新政」
新政酒造は、秋田県秋田市にある嘉永5年(1852年)に創業された非常に歴史ある酒蔵です。当主だった初代 佐藤卯兵衛(さとう うへえ)さんの名前をとって、当時は「うへえの酒」と呼ばれ地元の人に愛されていました。「新政」という名前は、明治維新時に西郷隆盛が掲げた「新政厚徳(厚き徳をもって新しい政をなすという意味の言葉)」を初代が気に入り、酒へ名付けたそう。
「新政」は、この酒蔵で発見・抽出された「きょうかい酵母6号」を使用しています。きょうかい酵母6号は寒さと低温に強い頑丈な酵母菌で、その強力な発酵力も特徴的。もともと新政酒造の知名度を全国レベルに押し上げたのは、この酵母菌の発見によるものでした。
自然の力を利用した伝統的な醸造製法「生酛造り(きもとづくり)」を採用することで、独特の深い旨みを引き出し、甘味と酸味が程よく感じられるフレッシュな飲み口の「新政」。どちらかと言えば薄味で、香りや味の主張はあまり強くないにも関わらず「まるで白ワイン」と例えられるその飲み口は、他の酒では味わえない独特さがあります。

変革前の新政酒造は、地方大手の蔵元というイメージそのままに突き進み、「日本酒といえば淡麗辛口」という既成概念を築き上げた酒蔵と言えたでしょう。ですが、米の味を全面に出した地元愛溢れる地酒をつくりあげ、そのイメージを自ら打ち破り酒造界に革命を起こしました。
現在の「新政」は、これまで日本酒を敬遠していた人やワイン愛好家にも受け入れられ、今着実にファン層を広げています。
「新政」のこだわり

生まれ変わった「新政」のこだわりは徹底しています。まず、全銘柄で秋田県産米のみを使用。酒づくりに欠かせない酵母は、新政酒蔵で発見・抽出された「きょうかい酵母6号」を使った、まさにメイドイン秋田と呼ぶべき正統派の純米酒。醸造方法には「生酛造り(きもとづくり)」という酒母に天然の乳酸菌を活用する伝統手法を採用し、コク深く濃醇な味わいを実現しました。
添加物についても徹底されていて、ラベル記載義務のない醸造用酸類や除酸剤などは「醸造の純粋性を尊ぶため」に一切使用されていません。開栓後の酸化にまで配慮し、通常は一升瓶(1800ml)販売が一般的であるのに対し、主力銘柄は四合瓶(720ml)のみで販売するなど、知れば知るほど酒づくりへのこだわりと姿勢が痛いくらいに伝わってきます。
変革者、佐藤祐輔

「新政」を「全銘柄が秋田県産米を使用した生酛造り純米酒」へと大胆にチェンジさせたのは、8代目当主であり新政酒造の現社長である佐藤祐輔さん。
実は東大卒のエリートで元フリーライターという、杜氏としてはちょっと特殊な経歴の持ち主。2007年に31歳で酒蔵に入るまではいち消費者として日本酒に触れてきたこともあり「少しくらいまずくてもストーリー性のある酒の方が魅力的」という独自の感覚で、酒づくりに取り組んだそう。手づくりであること、そして自分の美学にこだわりこれまでの 「新政」とは明らかに違う日本酒を世に送り出した佐藤さん。蔵元の長男なのに日本酒のにおいを嗅ぐのも嫌だったという佐藤さんがつくる日本酒だからこそ、普段酒を飲まない人や日本酒が苦手な人の心をつかむ酒づくりができるのでしょう。
「6号酵母」と「No.6」シリーズ

日本酒を語る上で「酵母」の存在は欠かせません。日本酒は米と水を混ぜ合わせた「もろみ」を発酵させることによってつくられますが、その発酵の役目をするのが「酵母」です。どんな酵母を使うかで酒の味や香りが異なり、それぞれに特徴のある日本酒ができあがります。

「新政」に使われる「きょうかい6号酵母」は、1930年に新政酒造5代目 佐藤卯三郎さんが発見し、「通称“新政酵母”」として新政酒造が全国的に知られるようになったきっかけとなりました。
酒づくりの酵母は、もともとその蔵に住みついている酵母菌を利用してつくられます。しかし明治期になると品質の安定と生産量を増やすために、酒づくりに必要な「もろみ酵母」の培養が始まりました。蔵に元からいる天然の酵母ではなく、大量生産のために培養した酵母で安定した酒づくりが行われるようになった時代に、「きょうかい6号酵母」が登場。新政酒造のもろみから抽出した酵母菌は低温耐性が高く、それまで日本醸造協会が頒布していたきょうかい1~5号酵母は、6号酵母の登場によって注文が途絶えて頒布中止に。新政酵母は現存する最古の酵母であり、新政酒造はその発祥蔵としても有名なのです。
8代目当主佐藤さんが生み出した「新政」ラインのひとつに「No.6シリーズ」があります。きょうかい6号酵母の魅力をダイレクトに伝えるための銘柄として誕生したこのシリーズは、「日本酒の生酒は品質保持のため寒い季節にしか出荷しない」という常識を超え、通年での販売を可能にしています。まさに、寒さに強いという6号酵母の特性を生かしてつくられた「酵母が主役の日本酒」です。
【No.6】シリーズの4本
R-type
「新政」の定番生酒「No.6」シリーズの中でも「Regular(通常版)」として気軽に飲めるのがこのR-type。生酛造りの特徴が酒の中にわかりやすく表れていて、生酒らしいうま味が強調されています。酸味のある淡麗旨口でキリッとして飲みやすく、改革後の「新政」を初めて飲むなら、まずはR-typeがおすすめ!
・精米歩合:麹米40%、掛米60%
・原料米:秋田県産酒造好適米 100%使用
・参考価格:4,280円〜5,600円程度
S-type
S-Typeは、「No.6」の代表作。R-type(通常盤)の一つ上にあたる「Superior(上級版)」として位置付けられています。銘柄の個性と日本酒としての完成度の両面を兼ね備えて構想されているので、ふくよかなのにキレがある不思議な味わい。「濃縮感とキレ」という対照的な味わいが飲み口の前半と後半で、同じ酒の中で存在する、飲み飽きることのない日本酒です。
・精米歩合:麹米40%、掛米50%
・原料米:秋田県産酒造好適米 100%使用
・参考価格:5,680円〜 7,430円程度
X-type
「No.6」シリーズの中での最上級モデル。「eXcellent(豪華版)」の立ち位置に相応しい格調高い仕上がりとなっています。使用している「6号酵母」の力強さを一番感じられるのがこのX-Typeであると蔵元もお墨付きの銘柄。麹米、掛米ともに精米歩合が30%と米を磨きこんでいるのも特徴。最初に少し微炭酸を感じて、その後一切の雑味なく、すっきりと喉を通っていく飲み心地は「洗練」という言葉がぴったりの日本酒です。
・精米歩合:30%(麹米、掛米ともに30%)
・原料米:秋田県産酒造好適米 100%使用
・参考価格:7,830円〜12,100円程度
A-type
「No.6」のA-typeは、限定流通商品。2018年6月5日に行われた全国の新政酒造特約店が集結する「ARAMASA Collection」で振舞われたものです。「新政」の頭文字をとったNo.6の「A-type」。木桶仕込みの日本酒のようで、原料米の美山錦ならではのエレガントな味わいが特徴的で、新政酒造銘柄にしてはシャープな味わいとのこと。全国の特約店のみで販売している限定商品なので、売り切れ御免!手に入ればラッキー!ですよ。
・精米歩合:66%(麹米、掛米ともに66%)
・原材料名:米(秋田県産)、米麹(秋田県産米)
・原料米:秋田県産 美山錦100%使用
・原料米収穫年:2017年
・参考価格:13,450円程度
【colors】シリーズの4本
各銘柄のラベルに使われている色がそのまま名称になっている「colors」シリーズ。使用している秋田県産米の「個性」を味わうためのシリーズで、火入れ(加熱処理)を施すことでさらに旨みを引き出しています。「新政」という酒を安定して味わうにはもってこいのスタンダードな銘柄です。
生成(エクリュ)
秋田生まれの酒米「酒こまち」を使った秋田ならではの日本酒「生成(エクリュ)」。麹米40%、掛米60%と磨きの異なる酒こまちを配合しています。甘酸っぱい風合いに、寒冷地の雪解け水を思わせる清らかなテイストが特徴的な、日本酒ファンも思わず唸る酒。新政スタンダードとして、はじめに試してみるのもいいかもしれません。
・精米歩合:40%、60%
・参考価格:2,200円程度
秋田の新政酒造のお酒は六号酵母から始まって、どれもお気に入りのものばかりです。
今回は味もラベルも日本酒の枠にはまらない素晴らしいものでした!
出典: Amazon
瑠璃(ラピス・ラズリ)
名称にちなんだ青いラベルが美しい「瑠璃(ラピス・ラズリ)」。東北を代表する酒米「美山錦」を使用していて、清涼で端正な味わいが特徴。「新政」らしい淡麗な味わいはそのままに、穏やかさを兼ね備えて、時間が経つにつれてじんわりと甘みも感じられる日本酒です。
・精米歩合:麹米40%、掛米50%
・原料米:美山錦
・参考価格:2,480円〜3,350円程度
ラベルも日本酒っぽくないし、味もスタイリッシュです。微発砲があり、口当たりも良く甘ったるくない。2日で飲んでしまいました。
出典: Amazon
天鷲絨(ヴィリジアン)
秋田の高級酒米「美郷錦」を使った木桶仕込みの日本酒。「美郷錦」を最もおいしく感じられる精米歩合40%で仕上げているそうで、酸味とほんのりした渋みを感じる一本。colorsのラインナップの中では厚みと余韻が一番深く、力強い日本酒なので、じっくりと味わいたい方向けの銘柄です。
秋櫻(コスモス)
秋田で初めて誕生した酒造好適米「改良信交」を使用した日本酒。長野県生まれの「美山錦」とは兄弟となる酒米ですが、「美山錦」よりもなめらかな味わいだそう。おそらく「美山錦」が好きな人にも合う日本酒と思いますし、秋田発の酒造好適米ということで、秋田ならではの日本酒を求めている人にはおすすめです。
【PRIVATE LAB】シリーズの3本
「PRIVATE LAB」シリーズは一般的な日本酒の製法だけにこだわらず、革新な方法やもっと大胆な手法を取り入れてみようとする新しい試みから生まれました。これからの日本酒の「在るべき姿」、また日本酒業界が現在抱えている問題を解決するために構想を重ね、改革後の「新・新政」体制と同時に始動。日本酒の未来を担う「挑戦するブランド」として、「新政」の根源的な精神が反映された作品です。
天蛙(あまがえる)
「天蛙」はアルコール濃度10%以下の発泡性清酒。生酛造り・薄にごり・瓶内二次発酵酒という非常に難しい製法にチャレンジしている銘柄です。

蔵内の貯蔵はもちろん、取り扱い店舗での管理も条件厳守。購入後の管理も慎重に行う必要があります。なぜなら、瓶内に活性酵母が残っているため温度管理を間違うと暴発事故に見舞われることがあるそう。(一部ではこの現象を“怒りの蛙現象”と呼ぶらしい。)カルピスソーダのような甘酸っぱさとガスを含んだ軽快な飲み口で、どんな人にも飲みやすい美酒とのこと。生産数・出荷数とも最も少ないレア酒なので、「なかなか飲めない代物」と思うと管理は難しくても、一度は飲んでみたい酒ですね。
亜麻猫(あまねこ)
「亜麻猫」は、清酒用麹に加え焼酎用麹(白麹)も併せて醸造されていると言う、日本酒では珍しい銘柄です。白麹はクエン酸が豊富なので、酸味がさらに増したユニークな作品に仕上がっているとのこと。本家・新政酒造のホームページでも「異彩を放つ存在」とはっきり書かれているように、その味わいは日本酒離れしているとも言われるので、はじめて飲む「新政」には向かないかもしれませんが、新政ファンにはおなじみの酒。初心者の方も、定番銘柄を味わった後の楽しみとして、ぜひ「亜麻猫」に挑戦してみてほしいです。
・精米歩合:麹米40%、掛米60%
・原料米:酒こまち
・参考価格:2,500円程度
甘めで口当たり良く、でもスッキリしてて飲みやすい。
和食にはバッチリ!
他の食事にも合うかも?
とにかく、超お気に入りになりました。
機会が有りましたら購入したいと思います。
出典: Amazon
陽乃鳥(ひのとり)
「陽乃鳥」は日本最古の清酒製法をベースとして開発された貴醸酒。通常日本酒は米・米麹・水で仕込みますが、貴醸酒は、その水の一部を酒に置き換えて仕込んでいます。醸造段階で仕込まれた酒が、もう一度別の酒として生まれ変わる様子から名付けられた「陽乃鳥」。南国のフルーツのような濃密な甘みと甘酸っぱさが舌の上でとろりと広がる日本酒です。
・精米歩合:麹米40%、掛米60%
・原料米:美山錦
・参考価格:2,800円〜3,980円程度
その他のラインナップから2本
「新政」は季節ものの酒をつくりません。季節ものとは、いわゆる「初しぼり」「ひやおろし」などを指します。酒蔵の製造環境が多様化した現代では、以前ある時季にしか味わえなかった特別なものでも、季節と関係なく製造することができるようになりました。
加えて、各酒蔵の出荷戦略へ合わせて乗ってしまうと、酒を通した季節感がわからなくなってしまうと考え、「新政」では「初しぼり」「ひやおろし」ではなく、「元旦」「立春」といった「ハレの日」に特別な酒をリリースしているそうです。
新年純米しぼりたて
毎年、年の瀬から大晦日にかけて搾った酒へ神社で祈祷した絵馬をかけ、元旦に出荷するという縁起のよいお酒です。
立春朝搾り
春の始まりの日といわれる2月4日(立春の日)を祝って醸される日本酒。立春の当日に搾り、すぐさま瓶詰めされ、神社でお祓いを受けてその日のうちに出荷されます。日本ならでは伝統の良さを感じられ、独自の文化を見直すきっかけにもなりそうです。
多彩な「新政」の酒、あなたのお気に入りは?
酵母本来の旨みがしっかりと楽しめる「No.6」、秋田県産米を存分に堪能できる「colors」、新しい製法にチャレンジする「PRIVATE LAB」、どのシリーズもこれまでにない美学が込められていて、飲む楽しみだけでなく、見る楽しみ考える楽しみ触れる楽しみが含まれていると思いました。日本酒界のニューウェーブとして、「新政」のこれからの展開にますます期待が高まります。