200年続く米屋が語る本当においしいお米との出会い方


ごはん

出典:写真AC
昨今では、1日3食きっちり食事をとる人でも、お米は食べないという人が増えているそうです。「糖質制限」という言葉が流行っていることも手伝い、お米の消費量は年々減少傾向にあります。そんなお米を取り巻く食事環境が変わりゆく中で、はたして今食べているお米を「おいしい」と思って食べているのか疑問に思うことがあります。スーパーで何気なく買ってきて「こんなもんかな」とこだわりなく食べている人は意外に多いのではないでしょうか。

「せっかく食べるのであればおいしく、お腹も気持ちも満たされるお米を選びたい」、「心と体が喜ぶ本当においしいお米に出会いたい」。

おいしいお米を食卓で楽しむため、東京・府中市で200年続くお米屋さんに、お米を取り巻く現代の環境やくらしが豊かになるお米との出会い方についてうかがいました。

代々続く地域のお米屋さん「天地米店」の小澤さん。

天地米店 東京・府中駅から徒歩5分の場所にある「天地米店」は、小澤さんご夫婦が営む地域のお米屋さん。大正13年に創業し、今年で95年目を迎える老舗。今回お話しをうかがった小澤さんは3代目として「天地米店」を引き継ぎ、現在屋号を守っています。生まれたときからお米が身近にあり、特に先々代にあたるお祖父様の苦労をかたわらで見てきたこともあって、その大変さを知りながらも「お米の素晴らしさを伝えたい」という想いで、お米を販売するだけでなく、現在は公演やラジオなどでの広報活動にも取り組まれています。

お米を取り巻く現代社会と変化する環境

稲穂
出典:写真AC
近年のお米離れについては深刻だと小澤さんは日々悩まれています。

小澤さん「お米の販売価格は30年前からずっと変わっていません。しかし今は食べる人が減ってしまいそもそもお米が売れない時代になってしまいました。生産農家は良いものを作りたくても立ち行かない状況になっています。一般的にお米は10kgや5kgと一度にまとめて購入しますよね。この値段が高いと感じるという人がいますが、お茶碗1杯分の値段にするとほんの20~40円程度。コンビニではそれより高いお菓子や飲料を平気で買うのに、不思議とお米は高いと感じてしまうんです」

また、最近ではお米の消費量が激減している一方で、健康のことを考えて「玄米を食事に取り入れる」という人も増えてきてはいます。小澤さんもお米を販売しながら、特に小さい子どもがいる家庭で玄米を買っていく方が多いように感じていると話されていました。

このような話を聞くと、昔の日本人が当たり前に食べていたお米が、心なしか今は健康のために食べる「特別なもの」のようにも感じてきました。

自分に合う味を見つける。お米の個性と人の個性

天地米 小澤さん
撮影:たべごと編集部
消費者はおいしいものや本当に欲しいものにはお金を払います。また、健康のためには白米より玄米を食べた方が良いということも知っています。ただ玄米を炊くのは面倒という気持ちや、そもそも玄米をおいしいと感じないなどの理由で米離れが進んでいるということも考えられるのでは?

小澤さん「毎日が忙しくて時間に余裕がなくなると、”食事を簡単に済ませてしまおう”という気持ちになるのは仕方がないところもありますが、玄米がおいしくない、あるいはお米がおいしくないと感じているようであれば、そのお米が”合ってない”のだと思います」

お米が合っていないというのは、どういうことでしょう?

小澤さん「人にそれぞれ個性があるように、お米にも個性があります。みんな違うんです。おいしいと評判の品種や一緒に住んでいる家族がおいしく食べていても、自分には好みが合わないということはあるんですよ」

自分の好みに合うお米に出会うためには、気軽にいろいろな種類のお米を試してみてほしいと小澤さんは言います。
いろいろな品種を試すことで好みのお米を見つけて、そのお米を好きな炊き加減で食べること。その過程を”自分で発見して楽しむことが大切”なのだと話してくださいました。

情報が溢れる現代だからこそ自分で感じ、選ぶ

稲刈りの風景
出典:写真AC
以前、「米どころ」と呼ばれる地域のサービスエリアで食べたお米が口に合わず、がっかりした経験があります。このような体験もお米の好みの問題ですか?

小澤さん「お米は産地と品種が同じでも、同じ味のものは取れません。また、その年の気候などさまざまな要因によって、たとえ生産農家が同じであっても同じ味のお米を再現するのは難しい。お米は年によって出来も違いますし、現代は田んぼを取り巻く環境も年々変化していて、同じ場所でも同じお米が取れるとは限らないんです」

 
天地米 小澤さん 撮影:たべごと編集部

小澤さん「旅先で、米どころなのにお米がおいしくないというケースがあるのはそのためです。さらにはどんなにおいしいお米だと言われていても、おいしいと感じる人もいればおいしくないと感じる人もいます。一人ひとり好みが違うので、その感じ方が違うのは当然です」

だからこそ「おいしいお米はどれ?」と聞かれても答えるのは難しいのだそう。好きな味のお米に出会うためにはやはり品種や地域にこだわらず、そして先入観を持たずにいろいろなお米を食べてみることが一番!人の意見に左右されずに、自分が食べておいしいと思う感覚を大事にすることが何よりなのです。

筆者と小澤さん
撮影:たべごと編集部
小澤さんは現代社会において、自分の力で選ぶことの重要性についても話してくださいました。

小澤さん「いろいろな情報が入ってくること自体は良いことだと思います。大切なのは、そこから何を選ぶのかということ。例えば、玄米は昔から食べられてきたものなのでもちろん体に良いですが、健康のために一番良いのは玄米でも白米でも、とにかくよく噛むこと。何を食べるかということも大事だけれど、本当はもっと根本的に見直した方が良いことはたくさんあります。大切なことは自分で考えることこそが重要で、そのために自ら体験してみることが必要なんです」

お米だけでなく思い込みや先入観は何に対しても少なからず持っているもの。特に現代は情報がたくさん入ってくるからこそ、見極めて選ぶということが大切なんですね。

お米をおいしく食べるための「楽しむ」という視点

玄米の食べ比べ
撮影:たべごと編集部
この取材時、品種の異なる3種類のご飯を食べ比べさせていただきました。銘柄を見ずに食べたとき、一番おいしく感じたのは自宅では上手に炊けない玄米ご飯でした。
しかも、2種類の玄米のうち1つは冷凍ご飯を解凍したもの。まるで今朝炊いたお米と同じような味わいで、その秘訣をうかがうと、実はおいしく解凍ができる「陶珍」という専用の道具を使ったそう。

天地米 奥様
撮影:たべごと編集部
どの品種をどの程度の精米具合で、どんな道具でどう炊けばおいしいか、その試行錯誤を楽しんでいる小澤さんご夫婦。「こんな風に炊いたらおいしかった!」「新米はこのくらいの精米がいいのでは?」という2人の会話からわくわくした気持ちが伝わってきて、お米を楽しむこということは何か、その豊かなくらしぶりを垣間見た瞬間でした。

ご飯茶碗一杯に詰まった「豊かなくらし」のエッセンス

白いご飯
出典:写真AC
お米をおいしくたべること。それは自分の好みを知ること。
人が一人ひとり違うようにお米も、そしてそれを炊く道具もそれぞれ違う個性を持っていて、その一つひとつに向き合うことが「こだわり」だと小澤さんは言います。品種・地域・生産者・精米の方法・炊き方といろいろな視点があって、何を選んでも間違いではなく正解でもない。ただ、それらとどう付き合うか、どうしたらもっとおいしく食べられるか好奇心を持つこと、自分だけのおいしさにたどり着くその過程を楽しむことが、人生を豊かにするのだと教えてくださいました。

こだわりを持つことと、思い込みは似ているようで違います。これまでは「自分で出会う」という一番大切な過程を経ずに、簡単においしさだけを求めてしまっていたのかもしれません。楽しむことこそが、暮らしを豊かにする何よりのエッセンス。
今日はいつもより時間をかけてお米を炊いてみようかな…と思わず心がときめいてしまいました。

天地米店 小澤さんがおすすめするご飯をおいしく食べる道具たち

ITEM
長谷園 土鍋 ご飯鍋 かまどさん(2合炊き)
・サイズ:幅21×奥行21×高さ16cm
・重量:3.0kg
・素材・材質:陶器

ITEM
長谷園 おひつ 陶珍(小)
・サイズ:約幅13×高さ9.5cm(約1合分)
・容量:約400ml
・素材・材質:陶器
・その他:電子レンジ対応





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天地米店
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番匠郁
番匠郁

ライター時々料理人

道産子と九州男児のハーフ。関西弁、大分弁、金沢弁を話すトライリンガル。
アーティスト山村幸則氏の作品制作に携わったことをきっかけに、働き方や住む場所に捉われない生き方を模索するようになる。
コミュニケーションアートを通してまちづくりに関わるなか、「人の集まる場所には食がある」ことに気がつき、以来、食を媒介した街・人・アートの仲立ちプロジェクトを幅広く展開。
役者として舞台に立ちながら開始した劇場ケータリング”劇場メシ”では、演者やスタッフを食で支える裏方の裏方として活動。生産現場にも足を運び、土を耕し自ら収穫して料理をつくる体育会系ライター。
動画作成チーム”ButterToast”ではシナリオも担当。

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