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沁みる、甘さ。幻の白いサツマイモ《七福芋》を求めて【愛媛・新居大島】

“奇跡の芋” “幻の芋”とも呼ばれる「七福芋」。じんわり沁みわたって、たっぷり甘味を感じて、ゆっくり癒される。そんなサツマイモが愛媛県新居浜市の沖合に浮かぶ、瀬戸内の島にあるのです。「七福芋」を求めて、出かけてみましょう。

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じんわりと、甘さが体に沁みわたる。そんなサツマイモを食べたことがありますか? 最近は近所のスーパーでも、糖度がとても高いサツマイモが手軽に買えるようになりました。甘味は体を動かし、エネルギーを生み出す印であり、バロメーターのようなもの。強い甘さを持つサツマイモに魅かれるのは、当然の摂理と言えるかもしれません。 でも「おいしいなぁ」と感じる前に、反射的に「わっ、甘い!」と感じる鮮烈な甘味は、時にちょっと疲れたりもします。じんわり沁みわたって、たっぷり甘味を感じて、ゆっくり癒される。そんなサツマイモもあるのです。 舞台は、愛媛県新居浜市の沖合に浮かぶ、瀬戸内の島。つくり手も少なく、“奇跡の芋” “幻の芋”とも呼ばれる「七福芋」を求めて、出かけてみましょう。

歴史ある島は、旅人を日常から解き放つ。

愛媛県新居浜市の沖合にある新居大島。名前は“大島”ですが、周囲は8kmほど、人口はおよそ190人というとても小さな島です。島へのアクセスは、新居浜市の黒島港からおよそ15分のプチクルーズ。約1時間に1往復運営されている市営渡海船に乗って向かいます。 港が近づくにつれて、静かに横たわる島の自然が目に飛び込んできます。島内に公共交通機関はありません。訪れる人にとってみれば、ここは非日常の離島。島を一周する道路は、サイクリングコースとして観光客を楽しませてくれます。 中世に活躍した伊予水軍の統領である村上義弘生誕の地とも言われ、古くから瀬戸内の交通の要衝として重視されていたため、水軍にまつわる遺跡が島のあちこちに。また、1月には、門松やしめ縄などを集めて高さ10mにもなる「とうど」をつくり、無病息災を願って燃やすという「とうどおくり」という祭りも。無形民俗文化財にも登録され、多くの見物客が島外から訪れるのだそうです。

七福芋、それは自然が生んだ奇跡。

のどかな自然が息づくこの小さな島で育まれるのが「七福芋」です。サツマイモの一種である“白いも”は全国でもめずらしく、東京の新島、長崎五島の奈留島、そしてこの新居大島でしか、現在は栽培されていません。なかでも新居大島で育まれる白いもは格別で、「七福芋」と呼ばれています。 七福芋は生育環境条件が厳しく、まさに新居大島のテロワールが育むもの。年間の生産量もわずか数トンと希少ゆえ、“幻の芋”や“奇跡の芋”とも称されています。 白みをおびた皮と高い糖度が特徴で、その糖度は15度にもおよびます。“メロン並み”の糖度なのですが、でもそれは決して尖った甘みではないのです。濃厚なのに、ゆっくり、じんわり、ねっとりと広がる甘さ。見た目も、食感も、味わいの広がりも唯一無二…そんなサツマイモなのです。

「この島でしかこの味は出せんのよ。」

七福芋の栽培には、水はけの良い砂まじりの土壌と、早い時間から朝日の当たる日当たりのよい土地が欠かせません。段々畑が広がるこの島のテロワールは、まさにそれを兼ね備えたもの。 そんな新居大島ならではの七福芋ですが、つくり手の半数以上は80歳を超え、高齢化が進んでいるのも現状です。多くの方に知ってもらい、食べてもらうために、そして地域活性化のために、七福芋の生産者としてできることを…そんな想いを胸に、人生をかけて七福芋を育てているつくり手に会いに行きました。

白石寍美(しらいし・やすよし)さん、87歳。

昭和8年生まれの白石さんは、この島で育ちました。戦時中、まだ小学生だった頃に、白石さんの父親が、果物や麦とともに白いもの生産を開始。でもそれは、国へ収めるための農作でした。「ほかに売ったりなんかしたら、“お縄”や。」白石さんはそう振り返ってくれました。 昭和30年頃、まだ戦後の食糧難が続くなか、全国的には「高系14号(鳴門金時)」がサツマイモ生産の主流になっていきますが、それでも白石さんの家では白いもを自家消費用につくり続けていたとのこと。昭和の終わり頃、新居浜に青果市場ができ、少しずつ市場にも出荷するようになったそうです。 「今はつくった七福芋はほとんど全部出荷しているよ。まぁ、健康のために少しは家でも食べるけどな」と白石さん。「七福芋は、収穫した後の熟成が大事。見に行ってみるか?」 訪れたのは、11月の終わり。ちょうど収穫が一通り終わり、山あいにある畑の小屋の床下で熟成させているとのことなので、そのまま向かいました。 車で結構な斜面を上がっていくと、段々畑が登場。その傍らにある作業小屋にお邪魔し、畳と床板を外してみると… たくさんの稲藁の束が、まずはお目見え。 その稲藁の束を除けていくと… ありました! その姿は、すやすやと眠る赤ちゃんのよう。「起こしてゴメンね」と心の中で呟きながら、貴重な熟成中の姿を見ることができました。 七福芋は、多くの野菜や果物と違い、寝かせることによって水分が飛び、熟成されていきます。貯蔵して1〜2ヶ月の七福芋が一番甘いと言われており、この貯蔵熟成によってねっとりとした食感が生み出されるのです。

シンプルに、焼き芋で味わう!

七福芋は、鳴門金時などのサツマイモと比べると、ひとつの蔓に生る芋の数も少ないのだそう。重さは4ランクあって、小(50g〜)、中(150g〜)、大(250g〜)、特大(350g〜)となり、傷ありのものなども大事な加工用ペーストになります。 「まだ少し時期が早いけれど、小サイズのものなら熟成しているものがあるから、焼き芋にして、食べてみてください」と株式会社七福芋本舗の秋月純一さんが、準備してくれました。 秋月さんは大学卒業後、地元である新居浜に戻り就職。その傍ら、NPO法人GOODWILLのスタッフとして活動するなかで七福芋と出会い、現在は株式会社七福芋本舗に所属。まさに世界的なトレンドでもある“Farm to Table(畑から食卓へ)”の展開で、七福芋の普及促進に尽力しています。 加熱すると甘味が増す焼き芋は、サツマイモの定番の食べ方ですが、希少な七福芋の焼き芋となると、話は別です。 一つひとつアルミホイルでくるんで、オーブントースターで15分ほど。いい香りが漂ってきます。アルミホイルを剥がして、芋をそっと割ってみると… 皮がスルリと剥け、黄色くねっとりとした姿が現れました。ひと口食べてみると、とろりとした食感とともに、甘味が口いっぱいに広がり、ふくよかな芋の香りが鼻を抜けていきます。 「ああ、おいしい。」 確かに甘いのですが、これまでにサツマイモを食べて感じたことがある甘味とは、どこか違います。だしの効いた味噌汁や、上質な自然派ワインを飲んだ時に感じる“しみじみと沁みる”ような感覚…体の力がスーッと抜けて、ほっこりする甘味がそこにはありました。 大地のエネルギーに抗うのではなく、寄り添うことで生まれる自然の甘さは、しっかりと力強く、それでいて、やさしい。そんな味わいをシンプルな焼き芋で体験することができました。 「新居浜市には、七福芋のおいしさを全国に広めるために“にいはま大島七福芋ブランド推進協議会”というものがあって、七福芋を使った商品を審査・認定しているんですよ」と秋月さん。次に、その認定品でもあるという七福芋からつくられる焼酎をテイスティングさせていただきました。

地元の蔵元コラボで生まれた【焼酎あんぶん】

希少な七福芋を原料にして、焼酎をつくる。なんとも贅沢な逸品です。醸造を担ったのは、創業100年を超える松山市の蔵元「桜うまづき酒造」。同じ愛媛のコラボレーションです。 赤い箱の定番品は、アルコール25度。無色透明で、芋焼酎特有の強い香りはあまりありません。フレッシュなハーブ、びわのようなやわらかな果実香があり、知らずに飲んだら、テキーラのような蒸留酒をイメージする、さわやかな味わいです。 紫の箱の「特旨」は、アルコール30度。定番品と比べると、少しリキュールのような甘やかな香りがあります。穀物を炒った時の香ばしさもほんのりとありますが、こちらも芋焼酎特有の強い風味はあまりありません。加水すると、ハーブっぽさやミネラル感がアップしました。 カクテルベースとしての可能性もあり、芋焼酎が苦手という方に喜ばれそうな焼酎には、ほかにも長期熟成を見越したラインナップもあるそう。七福芋本舗のWebショップでは、七福芋の予約のほか、この【焼酎あんぶん】の購入もできます。

■七福芋本舗(しちふくいもほんぽ) http://shitifuku.shop-pro.jp/ *インターネット通販可能 愛媛県新居浜市久保田町3-9-27 TEL:0897-34-9515

手土産としても人気!永久堂の【にいはまそだち】

七福芋の“おいしい”可能性を求めて、「にいはま大島七福芋ブランド推進協議会」の認定品をさらに巡ることにしました。 まず訪れたのは、自社にパティシエを6名も擁しているという「永久堂」の工場。商品ラインナップは50以上あり、レモンや紅まどんな(みかん)など、瀬戸内の柑橘をつかった菓子が特に人気で、ここでつくられています。 「一括生産はすべて品質のため」と、社長の永易眞文(ながやす・まさふみ)さん。七福芋のペーストに、白いんげんと和三盆による白あんをブレンドし、やさしく焼き上げた【にいはまそだち】もここで生まれています。 ほろりと口どけていく食感が、なんとも心地よい。「生菓子ではなく焼菓子なので、あまり水分量が多いあんではなく、ホロホロした食感のあんを追究してつくったんだ」と永易社長。繊細なオーブン焼きの工程も、機械任せではなく、職人がつきっきりで管理して焼き上げていました。 「七福芋は、大島じゃなきゃできない作物。希少価値があるし、将来性がものすごくあると思うんだよ。鳴門金時と全く違うから、製法次第でパサつき感が出ずに、ねっとりとした粘りが出てくる。もう1種類、別の菓子を開発してみたいと思っているんだよ。」 口あたりの良い高級和菓子【にいはまそだち】は、地元の方の手土産としても人気。JR四国・予讃線の多喜浜駅前には直営店があり、生菓子も豊富に揃っています。  

■永久堂(えいきゅうどう) http://eikyudo.net/ 愛媛県新居浜市又野1-4-32 TEL 0897-45-0800

見た目も食感も楽しい!蛭子堂の【白いも黒三笠】と【大島の恵み】

次に訪れたのは昭和6年創業という老舗の和菓子店。四季折々の季節感を感じる和菓子や進物用の歴史ある銘菓のほかに、地元色を大切にした菓子も手掛けています。 「定番品は15種ほどで、季節ものと合わせるとラインナップは40〜50種になりますね」と、三代目店主の高橋英幸さん。「菓子を通じて、何かしらの感動と郷土愛を伝えられたらと思っています。七福芋を使った2品もそうです。新居浜ならではの素材をおいしく伝えられればと。」 初めにいただいたのは【白いも黒三笠】。竹炭パウダーを生地に練り込んだ“どら焼き”仕立ての菓子です。 「すでにみんなに親しまれている菓子で、何かつくりたかった」という高橋さん。七福芋のおいしさをどう生かすかを考えながら、まんじゅう、最中、大福なども試したうえで、どら焼きにたどり着いたのだそうです。 ただ、ふつうの焼き皮ではインパクトがない。「素材が白いもなら、反対に“黒”をテーマにやってみたら面白いかも!そう思ったんです。黒色を出す竹炭は無味無臭で、ミネラル分も注目され始めた頃だったのもあって。」 ただ、竹炭によってパサつきやすくなるという問題に直面。さまざまな試行錯誤があり、七福芋と白あんを混ぜたあんには、バターを加えたりと細かな調整も施しながら、最終的に完成品ができたとのことでした。 もう一つの認定菓子である【大島の恵み】は、あんの食感がなんとも個性的。ついつい「もうひとつ…」と手が出てしまう菓子に仕上がっています。 七福芋のペーストとダイスカットと白あん、それぞれを同じくらいの割合で混ぜ合わせることで、食感が楽しいあんに。生地は、はったい粉(大麦や裸麦を炒った上で挽いた粉)を小麦粉に混ぜているため、香ばしさがプラスされてなんともおいしい。 ひと口サイズの小さな菓子には、高橋さんの想いと技術がギュッと詰まっています。

味はもちろん、ブランディングも大事に!【太陽の白いもプリン】

2019年8月に立ち上げられたという「NPO法人 えひめおいしいもの協会」は、協議会による認定品とはまた別のアプローチで、七福芋のおいしさを伝えています。 「商品開発はもちろんですが、流通やブランディングまで考えていきたいんです。生産者を後押しし、“かっこいい”と思ってもらえるステージまでサポートできればと。」愛媛県内で様々な業態の店舗を展開する代表理事の森高大輔さん(写真右)、副理事の古本和久さん(写真左)、事務局長の青野泰介さんの3名は、熱く語ってくれました。 そこで、協会第1作となる【太陽の白いもプリン】を、早速試食すると… 七福芋の香りと食感をしっかり感じる仕上がり、そのおいしさに驚嘆!瓶の底には苦味が心地よいカラメルソースがあり、中心部はなめらかでクリーム感があるプリン生地、一番上には七福芋の食感がしっかり感じられる層ができていました。 料理人でもある代表の森高さんを中心に開発されたという【太陽の白いもプリン】。その名の由来も尋ねてみました。 「新居浜や東予地区は、一般的に“工業地帯”というイメージがありますよね。でも、ここには豊かな自然もある。七福芋が育まれる新居大島の太陽、土、潮風、海…自然のイメージを伝えたいという想いを“太陽の”という言葉に込めたんです。」 大地と太陽、海の恵みから生まれた七福芋のプリン。冷凍での全国流通・ネット販売も考えて開発したとのことですが、瞬く間に人気となり、原料の七福芋ペーストも希少とあって、すぐに品薄状態になってしまったほど。 2020年1月には「日本百貨店 しょくひんかん(東京・秋葉原)」でPR販売も実施。「プリンのほかにも、開発中のものがあって、いろいろと挑戦中です!」と、副理事の古本さん。これからの展開がとても楽しみです。

■NPO法人 えひめおいしいもの協会 https://ehime-oisiimono.stores.jp/

七福芋を育む風土を、つないでいく。

“幻の芋”と呼ばれる「七福芋」。愛媛県新居浜市、瀬戸内に浮かぶ新居大島で育まれてきたこの農産物を次世代につないでいくことは、日本のひとつの食文化を継承していくこととも言えます。 七福芋を知り、そのつくり手の話に耳を傾け、じっくりと味わい、その魅力を伝えていく。みなさんもぜひ一度、七福芋のおいしさを体験して、このおいしさをつないでいきませんか。

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佐野 嘉彦
佐野 嘉彦

食のエディター&ライター(で、元ダンサー!?)


「No Dance, No Life!」の生活から一変!NY発祥のレストラン評価ガイドの編集に携わった後、料理専門誌のWeb編集、ワインスクールでの講師、チーズのPR担当などを経て、現在、食と酒をこよなく愛するエディター&ライターとして活動中。
フードコミュニケーション企画「sembrar(センブラール)」主宰。Japan Cheese Award実行委員、2017 Mondial du Fromage・国際チーズ コンクール審査員、C.P.A.認定 チーズプロフェッショナル、J.S.A.認定 ワインエキスパート。

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